トヨタと米Waymoは、電気自動車「bZ4X」をベースとしたレベル4の無人自動運転タクシーを2027年から日本で初期運行すると発表しました。高岡工場で生産し、商用化や海外展開を目指します。
街中で手を挙げて止めたタクシーの運転席に、もし誰も座っていなかったらどう感じるでしょうか。そんなSF映画のような光景が、いよいよ日本の公道で現実のものとなります。トヨタ自動車と、米アルファベット傘下で自動運転技術をリードするWaymo(ウェイモ)は、2025年春に合意した戦略的パートナーシップを大きく前進させ、電気自動車(BEV)の「bZ4X」をベースにした完全自動運転タクシーを2027年に日本で走らせる計画を発表しました。国内工場の量産ラインで製造される車両を用いた、日本初となるドライバーレスのタクシーサービス計画。世界のモビリティ産業の勢力図を塗り替えるかもしれない、巨大プロジェクトの全貌に迫ります。
ここがポイント
・トヨタの電気自動車「bZ4X」にWaymoの第6世代自動運転システムを搭載し、2027年に日本で初期運行をスタート
・特定条件下でシステムがすべての運転操作を担う「レベル4」の無人運転を想定し、検証を経て商用サービスへ移行
・愛知県豊田市のトヨタ高岡工場で車両組立から自動運転機器の搭載までを一貫生産し、高い品質とコスト効率を実現
・日本での導入を皮切りに、英国などの右ハンドル市場へ順次展開するグローバルなロボタクシー戦略
・トヨタは並行して独自の自動運転開発やハイブリッド車のレベル4制御も継続し、2032年の実用化を目指す
なぜ「JPN TAXI」ではなく「bZ4X」なのか?

日本の街を走るトヨタのタクシーといえば、背が高くスライドドアを備えた「JPN TAXI(ジャパンタクシー)」を思い浮かべる方が多いはずです。しかし、今回両社が次世代の自動運転タクシーのベース車両として白羽の矢を立てたのは、クロスオーバーSUVタイプの電気自動車「bZ4X」でした。一見するとパーソナルカーの色合いが強いこのクルマが選ばれた背景には、空間設計の優秀さと、グローバル展開を見据えた合理的な理由が存在します。
まず注目すべきは、タクシーとしての居住性と積載能力です。トヨタの開発陣によると、EV専用プラットフォームを採用してホイールベース(前輪と後輪の間の長さ)を長く取ったbZ4Xは、後部座席の足元スペースにおいてJPN TAXIに匹敵するゆとりを確保しています。さらに、スーツケースなどを積み込む荷室の容量に関しては、JPN TAXIを上回る広さを誇ります。今回投入される専用仕様車には、乗客がスムーズに乗り降りできる自動開閉ドアや電動式のバックドア、さらにはリラックスできる室内間接照明などが追加され、おもてなしの空間へと仕立てられます。もちろん、万が一システムの一部に不具合が起きても安全に走行を続けられるよう、予備の回路や機器を備える「冗長化」や高度なサイバーセキュリティ対策も徹底されます。

もう一つの大きな理由が、パワートレインの選択です。現在、Waymoはアメリカなどの都市でジャガーのEV「I-PACE」をベースにした自動運転タクシーを走らせており、保有するフリート(車両群)をすべてEVで統一しています。環境への配慮や商用運行における信頼性、さらには高度な電子制御との相性を考慮し、Waymo側は今回もEVの採用を強く望みました。現在、Waymoは東京やロンドンでもジャガーを用いた走行テストを進めていますが、bZ4Xの投入によって、日本と英国を中心とした「右ハンドル・左側通行」の市場に向けた本格的な量産体制が整うことになります。
工場直結の「カイゼン」と驚異の安全データ

今回のプロジェクトで自動車業界が最も注目しているのは、車両の製造方法です。これまで多くの自動運転開発企業は、自動車メーカーから完成した市販車を購入し、後から自社の工場などでセンサーやコンピューターを改造して取り付ける手法をとっていました。しかし今回は、愛知県豊田市にあるトヨタの高岡工場にて、通常のbZ4Xを組み立てるラインの中でWaymoの第6世代自動運転ハードウェアまで一貫して組み付ける「ファクトリー・インテグレーション(工場内統合)」を採用します。
ここでひとつ、業界トレンドに関する豆知識をご紹介しましょう。実は、ライバルであるホンダは米ゼネラルモーターズ(GM)傘下のCruiseと組み、専用設計の無人ライドシェア車両「クルーズ・オリジン」を2026年から東京都内で走らせる計画を進めていました。しかし、GM側が自動運転タクシー事業の開発方針を大幅に見直したことで、計画は事実上の棚上げ状態となっています。ゼロから専用車両を作って認可を得るアプローチがいかに難しいかが浮き彫りになる中、トヨタとWaymoは「既存の量産EVの生産ラインを活用する」という極めて現実的で確実性の高いルートを選びました。
生産現場でトヨタの熟練作業員がWaymoの機器を直接取り付けることで、事後の改造作業が不要になるだけでなく、品質管理の精度が劇的に向上します。製造過程で見つかった課題をトヨタ側からWaymoへフィードバックし、逆にWaymoからも設計上の要望を伝えるという、トヨタ伝統の「カイゼン」を両社で回していく体制は、今後の大量生産やコストダウンにおいて他社に対する圧倒的なアドバンテージになるでしょう。

また、無人タクシーと聞くと安全面に不安を覚えるかもしれませんが、Waymoの経営陣が示した実績データは実に興味深いものです。同社はすでにアメリカの15都市で運行を行っており、完全自動運転での累計走行距離は約4億3500万km(2億7000万マイル)を突破、毎週約50万回もの乗車を提供しています。同社の分析によれば、重傷以上の深刻な事故が発生する確率は、人間のドライバーが運転する場合と比較して最大で20分の1にまで抑えられているといいます。また、運転手がいないことで「車内で電話や会話をしても聞かれない」「完全にプライベートな空間としてくつろげる」といった点が、アメリカのユーザーから高く支持されているのもユニークな傾向です。
インフラ連携とトヨタ独自開発のゆくえ

すでにアメリカで圧倒的な実績を持つWaymoですが、日本の道路環境は米国とは大きく異なります。道幅が狭く、歩行者や自転車が複雑に行き交う日本の街並みに適応するため、2027年からはまず少数の車両で初期運行を開始し、日本特有の交通データを蓄積しながらシステムの精度を高めていく方針です。運行エリアや台数、商用化の時期などは今後詰められますが、行政とのルール作りや事故調査の枠組みなども含め、一歩ずつ課題をクリアしていくことになります。
さらにトヨタは、クルマ単体のセンサーだけで周囲を判断する技術にとどまらず、道路側のインフラとクルマが通信でつながる協調型システムの可能性も模索しています。物理的な法則として、クルマはブレーキをかけてから完全に停止するまでに一定の距離を必要とします。しかし、もし交差点の死角から飛び出してくる車両や歩行者の存在を、街角のセンサーを通じて「2秒先、3秒先」に予測できれば、事故のリスクを極限までゼロに近づけることができます。この技術は安全性の向上だけでなく、信号制御などと連動した渋滞緩和にもつながるとして期待されています。

一方で、トヨタは自社の技術開発をWaymoに丸投げしたわけではありません。多様化するエネルギー事情に合わせて複数の動力源を用意する「マルチパスウェイ」戦略のもと、自社ではハイブリッド車(HEV)をベースにしたレベル4自動運転の制御技術も開発しています。さらに、グループ会社のウーブン・バイ・トヨタとともに独自の自動運転システム開発も並行して進めており、こちらは2032年頃の実用化を目指して、深刻なドライバー不足に悩むバスや商用車などの公共交通領域へ投入する構想を描いています。
MotorG編集部の注目ポイント
今回の発表で最も唸らされたのは、トヨタのしたたかで柔軟な「二刀流戦略」です。自動運転のソフトウェア開発で世界トップを走るWaymoと手を組み、2027年という極めて早いタイミングで無人タクシーの実績とデータを手に入れる一方、自社の強みである「高岡工場での精緻なモノづくり」を通じて自動運転ハードウェアの量産ノウハウをしっかり吸収しようとしています。そして裏では、2032年に向けて自前の自動運転システムとハイブリッド車の高度制御技術をじっくり育てているのです。ホンダとGMの協業が足踏みを強いられ、テスラが専用ロボタクシー「サイバーキャブ」の構想を打ち出す中、既存の量産EVと実績あるシステムの組み合わせで着実に公道へ送り出すトヨタ×Waymoの現実路線は、現時点で最も成功確率が高いアプローチだと感じます。
一般のドライバーやクルマ購入を検討している方にとっても、このニュースは決して遠い世界の話ではありません。今回のbZ4Xロボタクシーは法人向けのサービス車両ですが、ここで培われる「インフラ協調技術」や「高度な危機予測アルゴリズム」は、数年後に私たちが購入する市販車の安全運転支援システム(トヨタセーフティセンスなど)に確実にフィードバックされます。また、ベース車両に選ばれたことで、bZ4Xというクルマの基本骨格やパッケージングの優秀さが改めて証明された形にもなりました。2027年、街中でセンサーをまとったbZ4Xを見かけたら、ぜひ一度スマートフォンで呼び出して、運転席に誰もいない未来の移動空間を体験してみてはいかがでしょうか。
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